小説

私たちはもう随分と遠くに来てしまった

三日前あたりから、世界にむせ返るような甘い香りが漂っている。言わずもがな、金木犀である。そんな金木犀の季節を、 期待外れな程 感傷的にはなりきれず 目を閉じるたびにあの日の言葉が消えてゆく 【赤黄色の金木犀/フジファブリック】 と歌ったのは故・…

『風に舞いあがるビニールシート』森絵都

単位が取れたか落ちたかはさて置いて、私はもしかしたら人生最後となる夏休みを手に入れた。大学のゼミの教授には「今年の夏休みが勉強する最後のチャンス」と言われ、私ももう、今年何かしなければもう一生何かを成し遂げることはないと思った。 同級生たち…