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『風に舞いあがるビニールシート』森絵都

 

 単位が取れたか落ちたかはさて置いて、私はもしかしたら人生最後となる夏休みを手に入れた。大学のゼミの教授には「今年の夏休みが勉強する最後のチャンス」と言われ、私ももう、今年何かしなければもう一生何かを成し遂げることはないと思った。

  同級生たちはインターンやら資格勉強やら、そういう来年の就職活動の準備をしている中、私は何をすると決意したかというと、「読書」である。馬鹿といえば馬鹿らしく、それが来年以降の自分のためになるのかと問われれば、私も必ずしも肯定は出来ない。しかし、今読まなければ今後読まない本は確実に存在するし、何より年々読書量が減っていく現状が悲しく苦しくもあったので、今年の夏休みの目標を「25冊読むこと」とした。そして、ただ読んだだけではきっといろいろと忘れてしまうので、できる限りここに書き記したいと思う。

 今日はそんな夏の読書の第1冊目、森絵都著『風に舞いあがるビニールシート』である。

 

  第135回直木賞を受賞した今作。

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 愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々ばかりを、気がつくと今日も思っている。

 

大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語

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という文句が帯についている。私はこの帯というものを考える人は本当に凄いなあと常日頃から思っているのだが、殊にこの帯は秀逸だ。

 

  収録されている話は「器を探して」「犬の散歩」「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」「風に舞いあがるビニールシート」の六つなのだが、とにかく私はこのうちの最後、「風に舞いあがるビニールシート」にすっかり泣かされてしまって、そのことしか読後は考えられず、恥ずかしながらこの六つの物語の共通点が見えなくなってしまっていた。

 そんなときのこの帯の「大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語」という文句。これだ!これこそが主題だ!と興奮した。

 人にはそれぞれ時として他の人には理解し難い大切なモノがあって、それがあるから生きていられる。例えば「器を探して」におけるヒロミの作るケーキ、「鐘の音」における仏像、そして「風に舞いあがるビニールシート」における難民保護活動……。そしてそれは、譲れないものとなって生き方を変え、人を変える。この小説たちの素晴らしいところは、それらを決して飾ったりせずに、極めて現実的に描いているところだとおもう。何かを大切にするということは、他の何かをおろそかにすることであったり、大切にしすぎたそれを傷つけることだったりと、必ずマイナスの面が出てくる。それを丁寧に隠さずに描くことで、物語が私たちの身近なものとなって迫ってくる。

 

  この6つの中で「犬の散歩」と「風に舞いあがるビニールシート」のふたつは犬の保護活動や難民保護活動といった、自分以外の他者を大切に思う人の物語である。私は残念ながら現時点で自分はそういう人間ではないという自覚があるのだが、だからこそハッとさせられた一文がある。

 

【いや、私はすでに関係してしまったのだ、と。(p82)】

 

つまり、関係なのだ。人間は自分に関係のあることには関心があり、関係のないことには関心がない。「風に舞いあがるビニールシート」の主人公は転職したことで難民保護活動に関係を持ってしまったし、エドに出会ってしまった。そうして人生が変わって、最後の決意に繋がる。

 

 私と同じように大切な何かを見つけられていない人にはこの物語たちは羨ましく思えるだろう。それぐらい、彼彼女らの生き方が眩しく、美しく見える。しかしその大切なものは宝石のような仰々しくきらびやかものではなく、晴れの日に干した布団並に身近にある暖かなものであった。

 

 心動かされて感動すること間違いなし、オススメです。